狸と私
もう十数年前の話になりますが、私はフリーランスのライターをやっていたことがあります。旅行雑誌や動物の雑誌、地方のローカル紙などに様々な記事を書いておりました。有名人の方にインタビューに伺ったことも何度かあります。中でもとりわけ印象に残っているタスクが、高畑勲監督へのインタビューでした。
本日の訃報…20代の記憶がまるで花弁が色づくように艶やかに蘇ってきました。
当時、私は駆け出しのライター。文章力はプアで無鉄砲、インタビューも的を得たものではありませんでした。それでもジブリの大監督にお会いするのだと、彼の全作品を数日で徹夜付けで鑑賞し、その時のテーマであった環境問題について必死でリサーチしインタビューに臨んだものでした。しかし、たった数日で人間は賢くなれないのですよね。
彼の前で私は緊張のあまり、トンチンカンな質問をぶつけ、そして仕上がった記事もそれはそれはお粗末なものでした。きっとお叱りを受けるのだろうなと、憂鬱な面持ちで先方に原稿を送りました。苦々しい記憶です。
彼からの文章の校正が戻り、赤く染まった原稿をじっくり見つめました。赤いペンで修正されたいくつものフレーズ。世間に公表するということはこういうことなのだと、沢山のことを学びました。でも私の個性を決して壊さないやり方でした。最後にメモ書きが残っていました。「ライターの方の信条も大切にしたい」と。
その優しさに救われた思いでした。思えば、私の稚拙な話にも「うんうん。」と熱心に耳を傾けて下さっていましたっけ。本当に素敵な方でした。
平成狸合戦ぽんぽこ。何度みたことでしょう。毎日のように夢に狸がでてきた程です。笑
私にとって忘れられない映画になりました。
心からご冥福をお祈りいたします。
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